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Chapter 12: 第12話:エルフの村(3)

 魔物達は使える部位をとった上で、地面に埋めた。一番大きいボスだけは、説明するためにも俺が背負って持っていくことになった。

 狩りに出て四時間ほど、成果を持ち帰ったエルフの村は騒然となった。

「……まさか、これほどの魔物が村のすぐ近くにいたとは。アンスル殿が来てくれて良かったのかもしれませんね」

 ルビーウルフのボスの死体を見分しながら、族長がそう漏らした。シジリィが帰り道で教えてくれたが、これの相手をしていたらエルフに犠牲者が出ていた可能性が高いそうだ。

「多少は役立てるかという算段で来たのですが、これほどの結果を出すとは。さすがはヴェルですね」

 アンスルは嬉しそうだ。居ない間に族長と仲良くなっていた。今後のことなど、打ち合わせをしたそうだ。

「シジリィ、貴方から見たヴェル殿はいかがでしたか?」

「それはもう! エルフよりも遠くを見る目を持ち、魔物を打ち倒す光る矢を打ち出す弓は外さない、伝説の英雄のようでした! 怪我をしたあたしをすぐさま癒した上、このように気遣いまでしてくださいます!」

 袋を使った即席のスカートを示しながら、興奮気味に説明している。村に戻ったんだから着替えた方がいいと思うんだが。

「ふむ……。アンスル殿の説明を受けた時はまさかと思いましたが、ヴェル殿には人格があるようですね」

 ああ、そうか。そもそも見た目がロボな俺に心がありますって言われても中々納得しないよな。結果的に、これまでの行動がその証明になったわけだ。

「エリアナ村の領主アンスル。その守護者ヴェル。彼らとの友好を誓いましょう。差し当たって、我が村からいくつかの品々を送ります。その見返りに、魔物が現れた際に力をお貸し頂きたい」

「ありがとうございます。皆さんの友好にお応えできるよう、最善を尽くします」

「それと、アンスル殿については、あくまで赴任した領主として認識していた、とします。皆、いいですね?」

 族長が言い含めるように言うと、エルフ達が神妙な顔で頷いた。穏やかそうでしっかりとアンスルの身元については調べていたわけか。

 その上で、村に協力してくれる。これはとても有り難いことだろう。

「シジリィ、族長として、貴方に使命を授けます。彼らをお手伝いしなさい」

「はい!? あ、あたしがですか? なにゆえ?」

「アンスル殿と相談したのです。これから先、私達が作ったものを彼女の村で売って貰います。利益の一部は村に、残りは生活用品などに変えて届けて貰いたいのです」

 そうか。上手くやったな。自給自足に見えるエルフ達にだって、欲しいものはある。例えば、金属製のナイフとかだ。果樹の栽培をしているそうだから、加工品を作るための道具なんかも良さそうだ。

「あの、それはつまり、あたしが村の代表として派遣されるわけですか?」

「その通り。責任重大ですね。……アンスル殿、このシジリィは元々は好奇心が強く、外の世界で暮らしていたのです。悪い男に騙されて帰ってきたのですが、立ち直る良い機会を探していたのですよ」

「私としては嬉しい申し出なのですが。御本人は良いのでしょうか?」

「やります! やらせてください! こう見えて、他のエルフよりは世慣れしている自信もあります!」

 アンスルが言うと、意外にもシジリィは乗り気だった。なんか、チラチラこちらを見ているのが気になるけど。

「良かったです。きっと、アンスル殿と気が合いますよ。良い子ですし、弓の腕は村でも有数です」

 族長がにこやかに言うと、シジリィが照れた様子で一礼した。

「よろしく、シジリィさん。実は私も悪い男に騙されて、ここにいるのです」

「そ、そうなのですか。ほんと、ろくでもない男っているものですね……。でも、今はヴェル殿がいるじゃないですか。彼はとても良い人です」

「やっぱりそう思う? 村に戻ったら是非色々話しましょう」

 二人して早くも意気投合し始めた。これは本当に気が合いそうだ。

「村からの贈り物を用意しましょう。収穫した野菜、冬でも育つ種、それと果実酒など。ヴェル殿が素晴らしい働きをしてくれましたので、多めにね」

 少し茶目っ気のある言い方で、族長が言う。それを聞いたアンスルは目を輝かせ、深く頭を下げる。勿論、俺もだ。

 ●

 エルフの村での交渉は無事に終わった。もう日が落ちかけているので、今日は一泊して明日の朝帰るということになった。シジリィの準備もあるし、妥当だろう。

 時間が出来たので、アンスル経由で族長に頼み、インフォに教わった遺跡に向かうことにした。

 もう暗いから、当然一人だ。

 真っ暗な森の中をインフォのナビで進むこと、二時間。森の一画を切り取って出来た広場の中央に、遺跡があった。建物としては、村にあるものと非常によく似ている。

「こんなに目立ちそうなのに、エルフは知らなかったな」

『認識阻害の魔法が設置されています。エルフですら、近づけません』

 人避けをしてたわけね。扉に触れると、緑色の光が浮かび上がり、静かに開いた。

 その先は地下への階段。辿り着くのは、屋敷の地下と似たような設備だ。

「同じような施設に見えるな。動くのかこれ」

『少々、役割が違うだけですから。長く利用者がいなかったため、休止状態に入っているだけです。再起動可能です』

 実際、壊れているようには見えない。俺が入ったら明かりもちゃんとついたし、そこかしこで機械らしきものが小さな光を灯している。

『正面にある制御盤に触れてください。周辺の地脈の情報を更新し、エリアナ村への魔力供給を再開します』

 制御盤というのは中央にある台座のことだ。言われた通り手を置くと、室内全体が忙しく光り始めた。

「大丈夫そうか?」

『ご安心ください。自己保存機能は万全に稼働していたようです』

 十五分ほどすると、作業が完了したらしく、光は収まり、元の静けさに戻った。

『作業完了。これで、魔力充填がより効率的になります。また、エリアナ村内に備えた工房機能も利用可能です』

「工房?」

『貴方の世界の言葉で言う、3Dプリンターのようなものです。魔法の力を持つ道具も制作可能です』

「それ、3Dプリンターなんてもんじゃないだろ……」

 マジックアイテムを生み出す装置を使えるようになったってことか。これは、大きいぞ。多分。

『資材や魔力が必要ですが、今後の開拓に役立つでしょう』

「ああ、助かるよ。使い道は戻ってから考えるかな」

 これで少しは開拓がしやすくなるといいんだが。エルフの協力があるといっても、心配事は多いからな。いや、何よりも発声機関を作った方がいいかもしれない。

 色々と想像が膨らむ。ゲームの錬金術師みたいで、面白くなってきた。

 一定の成果を得たことに満足した俺は、遺跡をしっかり施錠して認識阻害をかけてから、エルフの村に戻った。


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