———「魔王」
これは、さまざまな神話や伝説に登場する存在。
邪悪の象徴。
残虐の代名詞。
世界や人類を害し、多くの存在に恐怖と災厄をもたらし、世を混乱に陥れる人物。
そう、これが「魔王」と呼ばれる存在である。
そして、多くの神話や伝説の中で、魔王を倒すために神々は英雄を選び、その英雄に多くの助けを与えて世界を救わせるのが定番となっている。
さらに、神々が異世界から英雄を召喚し、その者に魔王を倒させるという流れは、もはや約束されたようなものとなっている。
だから…
「私はその選ばれし不運な人間、ということか?」
「そう思っても構わないわ。」
このような会話が交わされることになった背景には、まさにこのような状況があった。
ここは、誰も知らない神殿の中心。
神殿には、金色や豪華な装飾もなく、神聖で威厳ある雰囲気もない。ただ、純白の建物が広がっている。
その時、神殿内には二つの姿があった。
一つは、まるで永遠の存在であるかのように、神殿の中央に立ち続ける存在。
それが女神だ。
そう、女神。
他にどんな言葉で表現すればいいのか、他に思いつく言葉がないほどだ。
彼女は、銀白色の長髪を持ち、その髪は曲線的に美しく背中に垂れ下がり、膝の後ろまで届いている。さらに風もないのに、その髪は軽やかに揺れ、淡い光を放っている。
彼女の瞳は純粋な青色で、まるで青い星のようだ。彼女が着ているのは清らかな白いドレスで、まるで玉のように白い足元には何の履物もなく、ただ裸足で地面に立っている。その完璧な身体のラインと優雅なスタイルが、あまりにも美しく、この世のものとは思えない、まるで完成された最高の芸術品のように、夢幻的で幻想的な感覚を与えてくれる。
その美しさ、その聖潔さ、その夢幻的な雰囲気。これらすべてを表現するには、「女神」という言葉が最もふさわしい。
少なくとも、神殿にいるもう一つの存在——半透明で幽霊のように浮かぶ「人間」——は、このように感じているだろう。
最初、彼は思わず目を奪われてしまった。
しかし、女神が彼にこう言った時、ようやく現実に引き戻された。
「突然で申し訳ないけれど、話を本題に入らせてもらうわ。」
本題とは一体何か?
要約すれば…
「あなたはすでに死んでいるけれど、私の世界に来て、魔王を倒してほしい。そのために、あなたを蘇らせて、勇者にするつもりよ。剣と魔法の世界、【オムニペルテンセン】に行くの。」
それが、話の始まりだった。
正直、彼はあまり信じられなかった。
女神? 魔王? 勇者? 剣と魔法の世界?
これらの言葉は、彼も理解できるものだった。
けれど、実際にその言葉が現実の出来事として自分の身に降りかかってくると、ただただ困惑するしかなかった。
彼は、自分がその設定を受け入れるまで、どれだけの時間が経ったのかさえ分からなかった。
ただ、ひとつだけ彼が確信していたことがあった。
「俺には、もう選択肢がないんだろう?」
もし女神の言う通りだとすれば、彼はすでに死んでいる。女神の提案を断れば、消えるしかないだろう。
そうなると、もう選べる道はない。
ちなみに、なぜ「「かもしれない」」と表現するのかというと、彼は自分が本当に死んだのかを覚えていないからだ。
いや、むしろ、自分のことをまったく覚えていないというのが正しい。
なぜそうなのか?
簡単だ。
「あなたがどう選ぼうと、それは必要ないことだから。」
女神はそう言った。
仕方ない。
もし彼が女神のお願いを拒否したら、結局どうなるかはすでに言った通りだ。
もし彼が受け入れるなら、前世の記憶が新しい人生に影響を与えないよう、また前世の知識や技術が異世界に過度に干渉しないよう、記憶を消すというのは非常に合理的な手段だ。
そのため、彼は自分のことをすべて忘れており、元々の世界の知識は常識的な部分だけが残っている。例えば、インターネットの存在やその用途は知っているが、その原理や成り立ちについては全く覚えていない。
これは女神が意図的にやったことではない。
「人間は一度死ぬと、すぐに何もかも忘れてしまうのよ。存在も記憶も、すべてが消えていく。でも、あなたを必要としているから、あなたという存在を召喚して、最低限の常識を戻してあげたのよ。だから、今の状況やこれから起きることは理解できるようになっているわ。」
女神は、まるで星のように輝く目で彼を見つめながら、淡々とこう説明した。
「あなたはすでに死んでいるし、前世の記憶はもう関係ないわ。仮に異世界に行くとしても、前世の未練が新しい人生に影響しないように、前の世界の技術や知識が異世界に過度に干渉することも避けなければならない。」
言い換えれば、どうしても前世の記憶は戻らないということだ。
彼はそれについて不満を言うことはなかった。
一つ目の理由は、すでにその記憶を忘れてしまっているので、もう執着することがないから。
二つ目の理由は、反対しても無駄だということを理解しているから。
繰り返すようだが、彼はすでに死んでいる。消えるはずだった命を、女神が蘇らせてくれるのだから、欲をかくことはできない。
生き返ること、第二の人生を与えられることこそ、すでに一つの恩恵なのだから。
「もう決めたようね。」
女神は彼の心の中を見透かすかのように、何気なく頷いて、完璧な手を彼に向けて伸ばした。
「それでは、神の名のもとに、異世界の人間であるあなたに再び命を与えます。」
その声は神殿全体に響き渡り、半透明の姿から輝きが放たれた。
その輝きは、まるで太陽のように眩しく、星のように煌めいていた。
その中から、また一振りの輝く「剣」が現れた。
「これからは「シエン」と呼ぶわ。」
「期待してるわよ。」
「千年待ち続けた勇者よ。」
その言葉が終わると、空中に浮かぶ「人」と「剣」は一緒に神殿から消えていった。
女神はその手を引き戻しながらも、まだ空中を見つめ、まるで消えた彼を見守るかのように呟いた。
「こんなに強烈な光を見るのは初めてだわ。彼が私の願いをかなえてくれることを願っているわ。」
そう呟いた女神は、目を閉じ、神殿を再び静寂の中に戻した。
そして、この物語が始まった。